TPP交渉大筋合意に思うこと

2015年10月11日(日曜日)

先週 TPP交渉の大筋合意というニュースが流れていました。

NHKのニュースによれば、

「環太平洋パートナーシップ協定の交渉は、アメリカ南部のアトランタで開かれている参加12か国による閣僚会合で、バイオ医薬品の開発データの保護期間など、難航していた分野で各国が折り合い、大筋合意に達しました。」

それを受けて安倍総理大臣もコメントを発しています。

アジア太平洋の未来に大きな成果とした上で

「TPPは、価値観を共有する国々が自由で公正な経済圏を作っていく国家百年の計であり、政権発足後、最初の日米首脳会議において交渉参加の決断をした。以来2年半にわたって粘り強い交渉を続けてきた結果、大筋合意に至ったことは、日本のみならずアジア太平洋の未来にとって大きな成果だ。政権発足以来の大きな課題に結果を出すことができた。

交渉の結果、農業分野において、米、牛肉、豚肉、乳製品といった主要品目を中心に、関税撤廃の例外をしっかりと確保することができた。農業は国の基であり、美しい田園風景を守っていくのは政治の責任だ。生産者が安心して再生産に取り組むことができるよう若い皆さんにとって夢のある分野にしていくために、われわれも全力を尽くしていきたい。農林水産業をしっかりとそうした分野にしていきたい」と述べたとあります。

内容的には、政府声明としては模範解答というところですが、現実的には問題も山積していると思います。

前段では、自由で公正な経済圏を作っていくということを述べていますが、後半では関税撤廃の例外をしっかりと確保すると述べています。

これは、農林水産に関しての生産者保護という意味合いと食料自給率の維持というに意味があると推測されます。

日本の政治は、米の田んぼは票の田んぼといわれるぐらい農業に対して、ときの政治家は保護政策に努めてきました。

ところが、この10年間で約10兆円の農業補助金を拠出しましたが、食料自給率も農業生産性も上がっていません。

つまり、補助政策では農業の競争力は高まらなかったという結果になっています。

日本の農業の生産性が高まらないのはいくつか原因があると思います。

第一は、アメリカやオーストラリアやフランスそしてウクライナなどの農業生産国を見ると国土が非常に広いということと、農業を行う平地面積率が高く、日本のように全体も大きくなく且つ山の面積が70%もを占める国は、物理的に生産性がそれらの国に比べて低くなるという状況があります。

その狭い平地を更に細分化して農業を行っていることが、生産性の低さに拍車をかけています。

第二は、農家の高齢化問題です。日本の農業人口の平均年齢は約60歳を超えてしまっていてイノベーションによる生産性向上のバイタリティーが期待できなくなっています。

もちろん、一部の地域では若い農業者が頑張っていることは確かですが、国全体で見たときには非常に厳しい状況が続いています。

第三は、農業を関税撤廃の例外事項としたために、上に書いた若者を中心とした大規模で付加価値の高い農業生産を促進することに対してスピードを減速する可能性が高いことです。この辺は、国家百年の計というところのアジェンダを明確にしていく必要があると思います。

また、自由貿易というと政治家は食料自給率の問題をよく口にします。

いざというときになったらどうするのかという議論です。

農林水産省の食料自給率を見ますと次のような数字が出ています。

日本の食料自給率は実は2種類の見方があります。

平成26年度食料自給率

カロリーベース=39%

生産額ベース=64%

カロリーベース=1人1日当り国産供給熱量÷1人一日当り供給熱量

生産額ベース=食料の国内生産額÷食料の国内消費仕向

国内消費仕向とは、食料の国内生産とネットの輸出入を足して在庫の増減を加味したものです。

この数字をもっと上げる又は維持するということをよく議論に出して言う人がいますが、エネルギー自給率が5%を切っている日本の現状では、いざとなったときに食料よりもエネルギーを断たれた方がシリアスな状態になることは火を見るより明らかです。

それよりも、自由貿易で強い部分を輸出し弱い部分は輸入して相互の依存度を上げることによる外交の方が重要になってきていると思います。

シンガポールの食料自給率は10%以下で、驚くべきことに飲用の水でさえマレーシアに頼っているという国ですが、1人当りGDPは日本よりはるか上で世界でもトップクラスになって世界のビジネスハブとしての位置付けを確立しつつあります。

そして、カロリーベースでみると39%で生産額ベースで見ると64%という数字を見ますと、野菜などがカロリーが低く国内生産が多いという事情はありますが、日本の消費者はかなり高い食料品を交わされている可能性を示しています。

日本の農林水産に関しての議論は、ほとんどが生産者の側の議論ばかりになっていますが、もう経済は消費者側の議論にたたなければいけない時代に来ているのに需要が供給を上回っていた時代のスキームから抜け切れていません。農業従事者の人口とそれを消費する人口は圧倒的に消費する人口が多いのに、消費者はサイレントマジョリティであることをいいことに票田である生産者の議論で政策を続けていてもどちらの発展も望めないこと、さらには結果的には日本経済の為にもならないということを認識すべきと思います。(たぶん十分理解していると思いますが・・・)

従って、農林水産省が明確に打ち出す政策としては、「消費者に安全でおいしく且つリーズナブルな価格で食料を提供する」というポリシーを明確にして、それを実現するための施策を打ち出していっていただきたいと思います。

話しはちょっと横道にそれますが、江戸時代幕府は鎖国政策をとってきました。それはなぜかというと外国から日本を守るためにという訳ではありません。

それよりも江戸幕府が恐れたのは、各藩が自由貿易により経済的にも軍事的にも発展することを恐れたのです。

つまり、外国から日本を守るためではなく、日本の中の反逆分子を恐れたのですね。

そして、鎖国をしながらも、自分だけは長崎を直轄地にして各国とせっせと貿易を行っていました。

つまり、自由貿易の経済に与える影響はポジティブの面の方がはるかに大きいということを知っていて自分以外は鎖国ですよという政策を強いていたわけです。

方向性は間違いなくグローバル経済であり、自由貿易という方向の積極的なアジェンダを政府が示さないと日本の活力はでないという結論になると思います。