2016年

5月

15日

定年後再雇用の賃金格差の東京地裁判決に思うこと

2016年5月15日(日曜日)

一昨日の5月13日(金曜日)の朝日新聞デジタルの報道によれば、定年後に再雇用されたトラック運転手の男性3人が、定年後と同じ業務なのに賃金を下げられたのは違法だとして、定年前と同じ賃金を払うよう勤務先の横浜市の運送会社に求めた訴訟の判決が13日、東京地裁であったと報じ、その裁判の判決として「業務の内容や責任が同じなのに賃金を下げるのは、労働契約法に反する」と認定し、定年前の賃金規定を適用して差額分を支払うよう同社に命じた。とあります。

この判決を見て私は、労働契約法という法律と、高年齢者雇用安定法という法律と社会保障の中の年金制度の受給年齢の引き上げという3つの要素が複雑に絡んでいて、なかなか難しい問題だと思いました。

司法としては、同一労働同一賃金という労働契約法に則り今回の判決を下したことは理解できます。

一方で、厚生労働省のHPの高年齢者雇用安定法のQ&Aで次のような内容があります。

Q,本人と事業主の間で賃金と労働時間の条件が合意できず、継続雇用を拒否した場合も違反になるのですか?

A1-9:高年齢者雇用安定法が求めいているのは継続雇用制度の導入であって、事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく、事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても、高年齢者雇用安定法違反となるものではありません。

というようになっています。

今回の判決では、「事業主の合理的な裁量」の合理性がないまま、同一労働でありながら再雇用というだけで賃金格差を設けたことが問題となっているのでしょう。運送会社としては、雇用条件を提示しお互い合意したうえで再雇用したと話しています。

高齢者雇用安定法は、60歳で定年を迎えた社員について、本人の希望があれば基本的に65歳まで雇用しなければならないことになっています。

定年制の廃止、定年年齢の引き上げ、再雇用の3つが選択肢とありますが、ほどんどの企業が、再雇用制度を選択しています。

これは、政府が年金制度の維持を目的として、受給年齢の65歳引き上げと定年60歳の5年間の空白を埋めるために企業にその期間の雇用を義務付けたもので、継続的に雇用するのであれば、労働時間や賃金は労使が合意し、合理性が担保できればある程度柔軟なものと理解している企業も多いと思います。

今後、年金支給年齢は、さらに引き上げられる可能性も高く70歳までの雇用義務付けなどということも考えれますので、雇用主としても今回の判決はかなり関心が高いものだと思います。

また、同一労働同一賃金についてですが、日本においては賃金カーブが年功によって上昇するという高度成長期の人手不足の時代に、長く勤めていれば給料も退職金もどんどん上がるという給与体系を採用してその制度がまだ残っており、同一労働同一賃金を実現するのは難しい状況にあります。

欧米のようにジョブ・ディスクリプション(職務記述書)が明確にあり、仕事が先に明確に決まっていて、その責務にたいして賃金が決まり、そこに人を配置するという考え方ではないために、そもそも、同一労働かどうかもはっきりしません。

今回のトラックの運転手のように、仕事の内容が明確な場合はむしろ少数派でないでしょうか。

しかし、激動の時代を迎え目標に対しての明確な仕事の定義というものは、目標を達成するうえで労使ともに重要です。労働市場の流動性が高まっている現代においては、採用から人事の決定において必要不可欠になっていきますし、賃金も職務に対して決められるという方向性を今から採用していく必要があります。そうすることで、企業は同一労働同一賃金の下地を作ることができます。

現在の日本は、人口減と少子高齢化により、消費が伸び悩んでいますが、労働人口はどんどん減っています。したがって、女性や高年齢者が労働市場の担い手になることが期待されています。いろいろな人が多様な生活環境のなかでいろいろな働き方を可能にしていかなければなりません。しかし、一方で雇用側も売り上げがなかなか伸びない中、社会保障の穴埋めだけでなく人件費の増大に耐えられなくなり新規採用ができないとなれば、若い人の働く場がなくなることも問題です。

年金制度と労働契約法と高年齢者雇用安定法が労使ともに納得できるようなシステムにしなければ、もぐらたたき状態から脱却できないと考えます。